(5)ライバルは別にいる
1) ご当地餃子
宇都宮という地域の食文化であった宇都宮餃子が、全国に名を知られ「宇都宮の餃子」から「宇都宮餃子」に変貌してから久しい。当時は、餃子で町おこしができるなどと考えること自体、笑いの対象でしかなかった。だが、宇都宮餃子の名は全国に轟き、宇都宮が餃子の町であることは常識になったといってよい。餃子を求めて、宇都宮を訪れる観光客も増えた。ビジネスできて、餃子を食べ、お土産を買う姿も日常になった。お中元・お歳暮などの贈り物や手土産に餃子が使われることも普通になった。他のものにすると、「宇都宮餃子のほうが良かった」と言われるほどだった。
このころ、宇都宮餃子は、ほぼ一人勝ちの状況だった。黙っていても、マスコミの取材は殺到した。お客さんも増え続け、右肩上がりの進撃が続いた。しかし、そのような状況がいつまでも続くわけはない。「餃子と言えば宇都宮」は定着したが、そうなればもはやマスコミが取り上げる魅力は減少する。かわって登場したのは、全国各地のご当地餃子である。福島(飯坂)餃子、博多の鉄鍋餃子、東京・蒲田の羽根つき餃子などが次々に発掘された。宇都宮餃子は、それらの紹介に際しての脇役の扱いをうけるようになる。浜松餃子の「日本一宣言」も、こうした状況下で大きく取り上げられたのである。従来からのご当地餃子だけでなく、川崎市、津市、裾野市など、独自の餃子を作り出すことによって、町おこしを狙う自治体も現れた。宇都宮餃子の成功が、それを生み出したと言えよう。こうして、餃子と言えば宇都宮だった時代は過ぎ、数多くのライバルが登場した。多くのご当地餃子が登場することにより、消費者の選択は増えたが、その分宇都宮餃子の位置は、相対的に低下せざるを得ない状況に追い込まれている。