「悪名は無名に勝る」のか ―宇都宮餃子VS浜松餃子(4年間の検証)―
6 家計調査の結果 ③ 中国農薬餃子事件が狂わせたシナリオ
ところで、この年の「ぎょうざ」購入額には、2月に発覚した中国での農薬入り餃子事件が大きく影を落とした。この年の「ぎょうざ」の購入額は、2月に中国農薬餃子事件が発覚したことで大荒れになった。その直撃を受けた宇都宮は、大きく購入額を下げ、前半は浜松市に微差(10円)でリードを許したものの、後半で逆転し、最後は1,000円以上の差をつけて日本一を守った。
これは、浜松市と浜松餃子学会にとって、予想以上の善戦だったのかもしれない。あの「日本一宣言」は、「目立つためのシナリオ」で、家計調査の結果が出たら宇都宮に出向いて「やっぱり宇都宮の餃子はさすが」「日本一へ改めて挑戦したい」と言おうと思っていたと斎藤公誉会長は後に告白している。このシナリオは、結局、実現しないのだが、そこには思いがけない善戦が影を落としているように見える。「ひょっとすると日本一になれるのではないか」と思わなかったら嘘だろう。もし、日本一になれたら、数字の違いはあったにしても、そんなことは小さな事になってしまう。
そして、次の年(2009年)は、更に浜松市は善戦する。依然として、中国農薬入り餃子事件の影響を引きずる宇都宮市に対し、浜松市は購入額を順調に伸ばし、遂には年間購入額で50円差にまで迫った。これなら、2010年には念願の日本一が見えてきたと、誰しもが思ったであろう。こうした状況では、浜松餃子学会の齋藤会長の描いたシナリオは無意味なものになってくる。
2010年の家計調査の結果は、浜松にとって衝撃的だったろう。届きそうだった日本一の座は、宇都宮が、あの事件からようやく復調したことで、打ち砕かれた。浜松市は、4754円と前年から620円の増加だったが、宇都宮市は6133円と1946円も増えた。事件以前の金額に戻ったのである。浜松市と宇都宮市のこの差は、事件がなかったら2008年で明らかになっていただろう。そうであれば、浜松餃子学会は、当初のシナリオに従い、宇都宮との和解を目指していただろう。だが、そのチャンスは失われてしまった。逆に、浜松餃子学会は、この間、悪名に悪名を重ねる行動をとってしまう結果になる。