7 浜松餃子まつりと「餃子サミット」―浜松餃子学会の「仕掛け」は続く
② 餃子サミット
第四回浜松餃子まつりの主催者(浜松餃子学会)は2010年10月23・24日に開催するに際し、「全国餃子サミット・浜松サミット」を同時開催することにした。サミットは、『「餃子でまちおこし」を実践している全国各地の餃子じまん団体が終結。これからの餃子とまちづくりについて意見を交換』するというもの。この趣旨そのものにはなんら問題はない。おかしいのは、その手法である。
浜松餃子学会は、7月に、宇都宮餃子会にサミット出席を打診している。これにたいし宇都宮餃子会は、大きく二つの理由から、これを拒否した。
1. 同じく10/23-24に宇都宮市内で開催される「ジャパンカップサイクルロードレース」などの大型イベントと日程が重なること
2. 2006年に浜松餃子学会が実施した“独自統計調査による浜松餃子日本一”キャンペーンにはじまる最近数年の活動を検証した結果、内容が著しく当組合に対して不誠実であり、信頼関係を構築することは困難と判断したこと
だが、宇都宮餃子会が、サミットに参加しないと決めた要因が、もう一つあると思われる。7月と言えば、すでに浜松まつりの骨格が決まっており、浜松でサミットを開くことを前提の打診だったはずだ。本来ならば、こうした重大案件は、事前の相談が必要であろう。とくに、浜松餃子学会が餃子サミットの目的としてあげた高邁な目的のためには、なによりも相互の信頼と、共通の認識が必要になる。餃子サミットの内容、時期、場所、出席者など、事前に調整すべきことは山ほどある。しかし、それらを、浜松餃子学会が勝手に決め、「参加してくれ」は、あまりにも自分勝手ではないだろうか。
斎藤会長は浜松餃子まつり終了後「さて、そんなこんなで幕を閉じた訳ですが、問題は次回どうするかです。白紙ですが、またなにか仕掛けたいですよね♪」(浜松餃子学会日誌)と報告している。餃子サミットは、第四回浜松餃子まつりの「仕掛け」にすぎなかったようだ。浜松餃子学会は、「浜松餃子日本一宣言」のときのように、自分たちの宣伝のため、宇都宮餃子会を巻き込もうとしただけで、そこには、餃子による町おこしの先輩に対する敬意を全く感じることができない。
浜松餃子学会は、9月14日、「全国餃子サミット」の参加国を発表した。
10月22日 全国餃子サミット~浜松サミット~
・議長国:浜松餃子国(浜松餃子学会)
・参加国:金沢餃子国(金沢食文化研究会)
すそのギョーザ国(すそのギョーザ倶楽部)
津ぎょうざ国(津ぎょうざ協会)
ふくしま餃子国(ふくしま餃子の会)
みやしろ餃子国(宮代町商工会内・名称検討中)
八幡餃子国(八幡ぎょうざ協議会)
10月23・24日 全国餃子サミット・販売イベント
・浜松サミットより:
金沢餃子国
すそのギョーザ国
津ぎょうざ国
みやしろ餃子国
八幡餃子国
・特派員:宇都宮餃子国
・オブザーバー:
愛知県より ※ のちに「和風あん餃子 夏目屋」と発表
大阪府より ※ のちに「中華料理 雁飯店」と発表
長野県より ※ のちに「らーめん じゃげな」と発表
北海道より ※ のちに「旭川餃子」と発表
驚いたことに、参加を拒否したはずの宇都宮餃子が、特派員として参加することになっていた。もちろん、宇都宮餃子会は参加を断っており、ここに名前を連ねるはずがない。実は、浜松餃子学会は、宇都宮餃子会に加盟している、ある餃子店の参加をとりつけていた。参加者名簿に、「宇都宮餃子国」としてあるのは、「餃子サミットの参加国は」、「各地域の餃子による街おこし団体を国として扱い」、「『○○餃子国』と呼びます」としているからだろう。一方、「特派員」は、「街おこし団体がありながらサミットには参加出来ない代わりに販売イベントには参加できる場合」としている。宇都宮からの販売イベントが、宇都宮餃子会によるものであれば、「特派員:宇都宮餃子国」と表記できるが、宇都宮が断っている以上、「国」を入れているのはおかしい。「特派員:○○餃子店(宇都宮餃子)」とでもすべきであろう。わざわざ「宇都宮餃子国」と入れるのは「宇都宮餃子会が都合でサミットには参加できないが、特派員を派遣した」ように偽ることになる。
浜松餃子学会は、宇都宮餃子会に出席を断られると、ある宇都宮餃子会加盟店の出店をとりつけることに成功し、それを「特派員」として発表したのである。宇都宮餃子会に「何の連絡や相談もなく、密かに個別組合員店舗に直接出店を依頼」するという、信じられない交渉の結果によるものだった。9月末に、これを把握した宇都宮餃子会は、出店予定店舗に事情を聞く。この店舗は、宇都宮餃子会が断ったという「経緯を浜松餃子関係者から一切聞いていなかった」とし、「餃子会が不参加を決めたイベントに出店するわけにいかない」と出店取りやめを決定した。
これを受けて、浜松餃子学会は、「残念なお知らせ」と題して、これを報告している。
「特派員として販売イベントの方にはご出店頂けるはずだった宇都宮餃子会の方ですが、急遽キャンセルになってしまいました。1ヶ月を切った辺りでその打診を頂き、正直印刷物とかいろいろ既に出来上がっていたので困惑しましたが、それなりの事情がお有りと推察し、本当に残念ですがお受けしました」(浜松餃子学会日誌・2010.9.24)
なんとなく、宇都宮餃子会の側に事情が生じたかのように報告しているが、実際には浜松餃子学会の強引なやり方が招いた当然の帰結であったとしか、言いようがない。宇都宮餃子会は、浜松餃子学会に一方的に振り回されたのであり、事実の説明もなく、反省・謝罪の一言もなく、「本当に残念ですがお受けしました」などと、あたかも浜松餃子学会が寛容であるかのように装うのでは、不信感の上に不信感を重ねることにしかならない。